第五章  ~出会い~

 

 

パカラ、パカラと心地良い音を立てながら、首都行きの馬車は進む。

深い森を抜け、平原に差し掛かっている。

久しぶりの遠出だ。外の景色は何度見ても見飽きない。

いや、むしろ楽しい。

もうそろそろ、首都に着くようだ・・。

リョウは出発前に買ったパイを食べながら外を見ていた。

結構沢山買ったはずなのに、残りはもう、あと1つだ。

セルビスを出発してからはや5日。

外から受ける風は気持ちよく、この道のりがあっという間に感じていた。

もしくは、旅の緊張でそうなのか・・・。

 

「兄ちゃん、首都へ行くのは初めてかい?」

隣に座っていた中年の男が話しかける。

この男は1つ前の乗り場で一緒になった。

気さくな性格で、仕事柄いろんな町に行くらしくリョウにいろいろな話を聞かせてくれていた。

「いえ・・小さい頃に1度。」

そう言ってリョウは微笑む。

首都には父と一度来たことがあった。

首都にある巨大な本屋に考古学の資料を買いにいった時の事だ。

でも、もう10年以上も前の事なので、あんまり町の様子などは覚えていない。

覚えていたとしても10年もたっていたら様子はすっかり変わっているだろう・・・。

そう思うと、今の首都はどうなっているんだろうと少し楽しみにもなってきた。

 

「そういえば、聞いたかい?」

向かいで話している老婆たちの話し声が聞こえる。

「3日前位に、首都の方へ怪しい奴らが向かっていったらしいよ。」

「おやまぁ、怖い。 盗賊かい?」

「脱走囚っていう噂もあるよ。奴らは東の方から来たっていうらしいし・・。ほら、東の方には収容所があるじゃないか。」

 

「世の中ぶっそうになったな」

男がリョウにそう言って、リョウもうなずく。しかし、自分には関係のない話だと思ってまた外の風景に視線を移した。

「魔物も出るって話だぜ。」

男はリョウにいった。

「・・・魔物?」

その言葉にリョウは再び視線を男に戻す。

「ああ・・・この辺り一帯には出るはずもねぇのにな。軍の討伐隊もいるし・・。それに森の動物も凶暴化してるって話も聞いた。」

「 ・・・凶暴化」

「ああ、知り合いが森の近くで畑作ってるんだが、突然、鹿や猪に襲われたって・・・。」

それまで襲われたことなんてなかったのになと男は続けた。

リョウの脳内に、あの老婆の言葉が思い出される。

 

『 村長に邪気が寄生していたんだよ。』

 

 

村長は邪気が寄生していたせいで、性格が氷のように冷たくなってしまっていた・・。

もしかして、動物達にも邪気が寄生していたんじゃないだろうか・・?

これはあくまで仮説だが・・。

でも、どうして?

リョウの頭の中に疑問が生じる。

老婆は言った。

村長に邪気が寄生していたのはリョウの事を連れ去るつもりだからと・・。

森は、リョウの村から離れている。

どうして邪気は動物に寄生したりしたのか・・・? 

それとも動物の凶暴化に邪気は関係ないのか?

リョウは胸元から懐中時計を取り出して時間を確認する。

あと30分位で首都につくだろう。

この平原を抜けたらすぐだ。

あの老婆は首都に着いたらおのずと自分のするべき事が分かると言った。

どうして首都に行けば分かるのかリョウには検討もつかない。

しかし、彼女の事だから何か考えがあるのだろう。

 

その時だった。

リョウや他の乗客は座っていた椅子から転げ落ちた。

馬車全体を大きな衝撃が襲ったのだ。

「!?」

リョウは馬車から飛び降りた。

彼の上空を黒い影がおおう。

空を見上げると、大きな鳥型の魔物が羽を広げて見下ろしていた。

下半身と羽は鳥だが、その大きさは尋常ではない。

そして、上半身、顔は・・・。

 

豹!?

 

まるで鳥と豹の融合隊のような魔物にリョウは凍りついた。

乗客たちは次々に逃げていく。

完全にパニックになっていた。

荷物もほったらかしで我先にと走り出した。

魔物は確かに存在する。

しかし魔物たちの住処は北の地方のごく一部の森の中だ。

人里に下りても軍の討伐隊によって攻撃されるので、人里に下りるのはめったにないのだ・・・。

だから人間も無闇に魔物の住処に行くことはしない。

自分から行くのは宝物を探すレジャーハンターなどの職業人か余ほどの怖いもの知らずのどちらかだ。

 

魔物は羽を動かして風を生み出した。

大きな竜巻が出来て周りの人々を巻き込んでいく。

逃げ遅れた人々は必死に岩や何かに摑まろうとしているが、余りの風の強さに次々と竜巻に飲み込まれていく。

魔物はどうするつもりだろう・・・もし、あの魔物が肉食で人間も食べるとなれば・・・。

「くっ!!」

リョウは懐に入れていた短剣を取り出して地面に突き刺す。

しかし、所詮護身用の短剣。

その小さな剣の力では彼の体を支える事は出来なかった。

「っ!  わぁっ!!!!」

地面に刺していた短剣は竜巻の力に耐え切れなく、リョウの体は宙に浮いた。

 

だめだっ!! 巻き込まれる!!

リョウは固く目を瞑った。

 

 

そのときだった・・。

 

 

「じゃま、どいて」

 

彼の横を栗色の髪がすり抜けた。

 

次の瞬間彼の体は地面に着地した。

いや、叩きつけられたと言ったほうが正しいかもしれない。

竜巻に飲み込まれていた人々も彼と同じくどんどん地面に叩きつけられた。

助かった・・そう思ってリョウは体を起こそうとしたが・・・

「!?」

体が動かない。

微かな動きは出来るものの体を起こそうとするとまた地面に叩きつけられてしまうのだ。

 

リョウは上空を見上げた。 

巨大な風の渦が自分を地面に押し付けているのだと分かった。

おそらくあの少女が・・・顔はよく見えないが、彼女が自分たちが竜巻に攫われないようにとやったことだろう。

しかし、この風の力は一体・・。

「この程度なの・・・あんたの力って」

少女は吐きすてるようにそう言って魔物の方に向かって手を伸ばした。

少女の栗色の髪が柔らかく広がる・・・。

リョウは感じた。

 

風向きが・・・変わる!!!

 

次の瞬間、リョウたちの体を押し付けていた風の渦は一瞬で形を変えながら魔物の方へ向かっていく。

渦の形はしだいに伸びていって 大きな長剣のような形になっていった。

そして、そのまま、魔物の体を串刺しにする・・・!

 

かまいたちの強化版・・・。

かまいたちは細かい刃で相手を傷つけるがこれはその刃が1つになって相手を傷つける・・。

そうリョウは思った。

そして感じた。 

少女の周りから感じる、恐ろしい程の殺気・・!

その余りの冷たさにリョウはゴクリと生唾を飲んだ。

体が思わす震える。

その時、思った。

彼はこの感覚を知っている・・・。

そう、夢の中でのあの視線と同じだ。

でも・・何故。

リョウは頭を振って息を吐く。

考えすぎだ・・・・・。

 

少女はけだるそうに顔にかかった髪を払いのけた。

そしてゆっくりと振り向く。

 

その瞬間、リョウの中の時間が止まったような気がした・・・。

さっき考えすぎだと自分の中から捨てた考えが一瞬で蘇る。

一度見たら忘れない・・・そう思っていた。

 本当にそうだ・・。

長い栗色の髪、髪と同じ栗色の淡い瞳、白い肌・・・。

そして、彼を見る冷たい眼差し・・・・。

 

 

夢でみた・・・あの少女だった。

 

 

 

第五章  ~出会い~  Fin